あの晩、この場所でのことだった。
そうだ。
だからこそ、Kは裏・兄者同盟の魔法使いに戦いを挑んだのだ。
仇をとる。たったひとつの目的のために――
だが、結果はこのざまだ。
しかも兄者審判(?)によって、属性をはがされつづけて、大事なことまで忘れさせられていた。
思いだせ。
Yの傷ついた姿を――
もうゴールしてもいいよねと問うた表情を――
あのあと感じた、胸をかきむしりたくなるような喪失感を――
「ふ……」
笑いがこみあげてきた。乾いた足音が近づいてきた。
――力を、貸してくれ。
CDを、カードを、集め、胸に抱く。
まだ、ゴールはできそうもない。
よろめきながらもKは力をふりしぼる。じくじくと足が痛む。
足なんて飾りと言い聞かせる。歯を食いしばってこらえる。
できるできないの問題ではない。
ここは立たなくていけない。
同時だった。
かろうじてKが立つのと、足音が止まるのは――
カウントは9――救いのゴングは鳴らないだろう。
それでも、対峙しなくてはいけない。
兄者同盟の一員であるかぎり――
影に包まれた男が笑った気がした。
ひゅんっ――
男の手が翻る。避けたつもりだった。だが、Kの体は思い通りに動かない。
「え?」
やさしい放物線をえがいた物体がKの手に収まる。
――こ、これは!?
『しょんぼりディスク2005 復刻版』
知っている。
KはこのCDを知っている。
このキュートなジャケットを知っている。
これを製作し、仲間に配る男を一人、知っている。
まさか――
そのとき、Kの頬を伝ったのは、夜露か。
男が闇のなかからまろびでる。
「お、おまえは――――!!!」 |