この違和感はなんだろう。
Kは壁にもたれて考える。
が、頭がぼんやりして、たちまち面倒になる。
呼吸も整わないし、もう動きたくもない。
どうやら出血もしているらしい。
なにが起きたのか、ゆっくりと記憶を反芻してみる。
たしか、裏・兄者同盟からの刺客に強襲された。
そこまでは覚えている。
だが、狙われた理由は――なんだっけ?
逃げこんだのは半壊したメキシコブロックF号棟4Fにある15号室――
この違和感はなんだろう。
――これはなんだ?
『劇場版AIR DVD』
なぜ、こんなものを持っているのだ。
とりあえず捨ててもよさそうだ。
まだ、なにかある。
アニメの主題歌らしき、マキシシングル。
タイトルは『ハッピー☆マテリアル』。
妙に――頭がうずく。
まだだ。まだ、なにか所持している。
プラスチック製のカードだ。アニメ絵の女の子が描かれている。
『征嵐剣シオン』『クラウディア』『ナタージャ』『コノハ』『眠り姫アルマ』
『桃華仙ミヤビ』『鎧羅王ポラリス』――
まただ。とくに最後の2枚が脳に訴えかけてくる。
……くそ、さっきからなんなんだ、これは。
頭が割れそうだ。ここを離れたほうがいい。場所を変えよう。
立ちあがりかけるも足の傷は深い。
「うわっ!」
瓦礫に足をとられて転倒してしまう。
したたかにみぞおちを打ち、呼吸困難。唇も切って、さらに出血。
「……」
急速にばからしくなった。こんな体で立ったところで、なにができるというのだ。
ここまでだ。諦めがつく。
もうどうでもいい。抵抗する気も失せた。
……ああ、足音が響いてくる。
そのときだった。
月にかかった厚い雲が動く。
「え?」
閉じかけた目に映る。差しこんだ月光が示すそれが――
「これ、は……?」
這って近づく。
血文字だ。かなり乾いてしまっているが、かろうじて判読できる。
『夕映っち、ハァハァ(;´Д`)』
「!」
Kは知っている。この字を知っている。
誰がこの字を書き記したかを知っている。
頭がクリアになってゆく。
「あ……」
ある旋律がよみがえる。
♪あのうみ〜どこまでも〜 |